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高松地方裁判所 昭和41年(行ウ)2号 判決

香川県坂出市坂出町四二四番地

原告

三宅金融株式会社

右代表者代表取締役

西本昌博

右訴訟代理人弁護士

阿河準一

被告

右代表者法務大臣

西郷吉之助

右指定代理人

叶和夫

水沢正幸

櫛部房之助

多羽本岩雄

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第二号租税債務不存在確認請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者の申立

1、原告

原告の被告に対する昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日に至る事業年度の法人税額金二、三〇六、二六〇円の租税債務は不存在であることを確認する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

2、被告

主文同旨の判決。

二、当事者の主張

1、原告の請求原因

(一)  訴外坂出税務署長は、昭和三九年五月二八日原告の昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日に至る事業年度(以下本件事業年度という)の所得につき、その法人税額を金二、三〇六、二六〇円とする更正決定をした。

(二)  しかし、坂出税務署長は、右更正決定通知書を原告に対して交付していない。また、原告の本件事業年度における所得は存在しなかつたにもかかわらず、坂出税務署長が前記更正決定をしたのは、その計算の基礎に誤認があつたものというべく、前記更正決定は瑕疵を有し、それは重大かつ明白な瑕疵であるから、無効である。したがつて、原告の被告に対する本件事業年度の法人税額金二、三〇六、二六〇円の租税債務は存在しない。にもかかわらず被告は、これを争うので申立趣旨記載の判決を求める。

2、被告の答弁

(一)  請求原因第一項は認める。なお、本件更正決定とともに、無申告加算税額五八、八〇〇円、および重加算税額六〇〇、九五〇円の各加算税賦課決定がなされた。

(二)  同第二項は争う。

3、被告の反論

(一)  本件更正決定および前記加算税の各賦課決定の通知書(以下更正通知書等という)の送達の経緯は次のとおりである。被告の担当係官である坂出税務署直税課法人税係長井沢清栄および同課法人税係岸本明輝の両名は、昭和三九年五月二八日、同日付の本件更正通知書等を訴外丸亀証券株式会社内において、原告の会計責任者村田巌に交付したところ、同人はこれを受領して同席していた原告の取締役西本勝太郎に手渡し、西本勝太郎はこれを開封して内容を見たうえ直ちにこれを担当係官に返し受領を拒否するとともに担当係官の持参した文書使送簿に受領印の押印をも拒否した。

なお、原告は坂出市坂出町四二四番地を本店所在地としているが、実質上その事務所は丸亀市にある前記丸亀証券株式会社内にあり、原告の帳簿書類も同所に備付けて経理事務を行い、原告の代表取締役西本昌博はもちろん取締役西本勝太郎および会計責任者村田巌も常時ここで執務していて坂出市の本社には不在勝ちであつたので、前記のとおり、係官らは右更正通知書等の送達のため、丸亀証券株式会社に赴いたものである。

以上のとおりであるから、本件更正通知書等は昭和三九年五月二八日、原告の会計責任者村田巌に交付された時点において、有効に原告に送達されたものというべきである。

(二)  本件更正決定の内容に関し、事実誤認はなく、重大かつ明白な瑕疵は存在しない。

三、証拠

1、原告

乙第二号証の一、二、第三号証の成立はいずれも不知、その余の乙号各証の成立は認めると述べた。

2、被告

乙第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三ないし第五号証を提出した。

理由

一、訴外坂出税務署長が昭和三九年五月二八日原告の本件事業年度の所得につき、その法人税額を金二、三〇六、二六〇円とする更正決定をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、一般に、更正決定がなされたのちに、その更正決定およびその後の手続に瑕疵があることを前提として、租税債務の不存在を主張するためには、その瑕疵が重大かつ明白であつて、無効事由に該当するものであることが必要である。

そこで本件更正決定および更正決定通知書の交付手続に重大かつ明白な瑕疵が存するか否かを検討する。

二、原告は、まず、坂出税務署長が本件更正決定の通知書を原告に対し交付していないから重大かつ明白な瑕疵が存する旨主要する。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証の二、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定すべき乙第二号証の一、二、および弁論の全趣旨を綜合すれば、次の事実を認定することができる。

大蔵事務官井沢清栄および岸本明輝の両名は、昭和三九年五月二八日原告の実質上の主たる事務所である丸亀市米屋町丸亀証券株式会社事務所に赴き、原告の会計責任者村田巌に対し、更正通知書等を同封した封書を手渡したところ、同人は右封書を一旦受取つたものの、開封して更正通知書等の内容を知るや、課税額が高額に過ぎるという理由で右更正通知書等の受領を拒否し、受領印の押印にも応じなかつた。また、同席していた原告の取締役西本勝太郎に対しても受領を求めたが、同人も同じ理由で受領を拒否した。そこでやむなく係官らは、更正通知書等を持ち帰つたものである。

以上の事実を認定することができ右認定に反する証拠はない。

右認定の事実からすれば、たとえ、受送達者が受領を拒絶しても、更正通知書等は、原告に対して送達交付されたものと認めるのが相当である。

そうすると更正決定通知書の交付にはなんらの瑕疵はなく、その交付がなかつたことを前提とする原告の請求は失当であるというべきである。

三、次に、原告は、本件更正決定の内容に関し、原告の本件事業年度の所得はなかつたにもかかわらず、坂出税務署長が本件更正決定をしたのは、その計算の基礎に重大かつ明白な瑕疵があると主張するが、瑕疵が明白であるとは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが処分成立の当初から外形上、客観的に明白であることをさすものと解すべきところ、法人税額算定の基礎である所得の計算の当否のごときは、所得の実体について、その事実関係を精査してはじめて判明する性質のものであり、したがつて、たとえ被告の認定に誤りがあつたと仮定しても、それをもつて直ちに明白な瑕疵があるとして、更正決定を当然無効とすることはできない。

したがつて、原告の前記主張も理由がない。

四、以上のとおりであるから、本件更正決定および更正決定通知書の交付手続に関する無効を前提とする、原告の本訴請求は、いずれもその理由がなく棄却を免かれない。

よつて、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上明雄 裁判官 板坂彰 裁判官 政清光博)

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